はじめに
2008年頃の世界的な金融危機、いわゆるリーマンショック以降、国内銀行の業績は回復傾向にあるものの、メガバンクを中心とした主要行等※1と地方銀行(以下、地銀)の回復度合いには顕著な隔たりがある。
本稿では、この要因を踏まえ、各地域経済の活性化というミッションを抱えている地銀にとって推進すべき戦略、そして、その戦略推進上の要諦、及びそれを実現するためにXspear Consultingが実行可能な支援について紹介する。
地銀の現状
リーマンショック後の2009年度から、直近の2022年度までの主要行等と地銀における当期純利益の伸び率を見てみると、地銀の伸び率は約136%と、主要行等の約248%に比べ停滞している傾向にある。国内銀行全体が長期にわたり苦戦している低金利政策に加え、地銀が停滞する要因としては、以下が考えられる。
① 人口減少と地域経済の停滞:地方部で人口減少が進み地域経済が停滞している地域があり、預金や融資需要が減少している
② 地方経済の産業構造の変化:地銀が主に支えてきた産業や地域の経済構造が変化(例えば、農林漁業の衰退や製造業の海外移転など)により地域の経済基盤が弱体化している
③ 地域の競争環境の激化:ネット銀行の進出などによる競争環境の激化に伴い、金利や手数料の引下げ・顧客の奪い合いなどが起こり、収益に影響を与えている
④ 経営効率化の遅れ:経営効率化や業務プロセスの見直しにおいて主要行等に比べ遅れが生じており、効率的な経営やコスト削減の取り組みが遅れている傾向にある
目指すべきゴール・推進すべき具体的な戦略
これらの停滞要因のうち、低金利環境や①人口減少と地域経済の停滞については、金融政策や経済政策等、国・自治体等による活動といった外部要因に起因している側面もあることから、地銀自らが目指すべきゴールは、今後の②地方経済の産業構造の変化や③地域の競争環境の変化を踏まえながら④経営効率化をDXにより加速させることだ。
まず取り組むべきは、行内のDX=業務改革。地銀では未だに紙ベースで業務・会議をしているところも多いのが現状であり、行員の各種行内手続き、申請、ワークフロー等においても効率化の余地は大きい。そこで生まれた余力を使い次に進めるべきなのが、対顧客のDX=デジタルチャネルシフトだ。個人・法人ともに、ネットバンキングやオンラインサービスを拡充し、人手をかけずに対応できるようにする。これにより人員コスト・店舗自体の削減を実現出来、顧客の利便性が上がるため、新たな収益の確保にも繋げることができる。
地銀が直面するジレンマと取りうる方針
…と、ここまでは教科書的な内容だが、そう簡単にはいかないのが地銀ビジネスの難しいところだ。というのも、仮に上記のように対顧客のデジタルシフトを進めると、「地域密着」という地銀の強みが失われる可能性があるからだ。実際に筆者は、地銀の経営層の方に「銀行のサービスがデジタルで完結できるとしたら、地域に店舗がある意味がなくなる。その場合、地銀の存在意義はどうなるのか?」と聞かれたこともある。これは多くの地銀関係者の方の本音だろう。
ではどうすればよいのか。方針は大きく下記三つあると考えており、上述した「地方経済の産業構造の変化」や「地域の競争環境」を踏まえて、最適な方針を選択する必要がある。
- 対面特化
- 時代に逆行するようだが、対顧客のデジタルシフトには力をいれず、店舗を維持し、地元密着を強めていく戦略だ。大手銀行が撤退していき、店舗があることの強みが相対的に向上している地域において有効であり、これにより対面チャネルを好む顧客層をしっかりと掴んでいくことが出来る。
- ここで意識すべき競合は、地元でアナログな付き合いを続けている信用金庫・信用組合だ。彼ら以上に地域と密な付き合いをして、銀行ならではの商品・サービスのラインナップを揃えて打ち勝っていく必要がある。勝てるエリアにリソースを集中させるため、中途半端な地域密着になって信用金庫に劣後しているエリア、例えば飛び地的に出店している近隣都府県からは思い切って撤退することも検討が必要だ。
- デジタルシフト
- 一気にデジタル専業に舵を切る方針もありうる。ふくおかフィナンシャルグループの「みんなの銀行」が象徴的な例だが、地域特化の考え方を捨て、デジタルの世界においてガチンコで勝負する、という戦略だ(業種は違うが、松井証券もかつては対面中心の中堅証券会社だったところから、ネット専業へと転身を果たしている)。デジタルマーケティングなど行員に求められるスキルも大きく変わってくるため、他社と提携するといった体制面の検討も必要だ。
- ここでのライバルはネット銀行となる。ただ、先行しているネット銀行といきなりフルラインナップで正面対決するのは難しいため、特定の顧客層にターゲットに絞る、一部の商品の利得性で勝負する、などニッチ戦略をとっていく必要があるだろう。
- ハイブリッド
- 最後はリアル+デジタルのハイブリッドだ。いくらデジタルシフトが進んでも、デジタルでは対応できないサービスや事務も残り続ける。例えば相続手続きで、遺族に寄り添いつつ、資産の整理をして今後の運用方針をアドバイスする、といったことはなかなかデジタルではできない。また、企業の生産現場、社員の顔を見て大きな融資の判断をする、といったことも引き続き必要だろう。事務手続きや振込・決済などの付加価値が低い業務はデジタルシフトし、付加価値の高いところには人手を集中させる、というメリハリをつけることで、多様な顧客ニーズに応えることが出来る。
- ここでライバルとなるのは、同じくハイブリッド戦略をとっている大手銀行だ。とはいえ圧倒的にリソースの差があるメガバンクと同じことをしても勝負にはならないので、デジタルのサービスレベルは最低限メガバンクに見劣りしないレベルに上げつつ、差別化を図りやすい対面サービスの手厚さで勝負していくのが勝ち筋だろう。
成功の要諦
-
- 明確な戦略の策定:なんとなく「DXを進めよう」「アプリを刷新しよう」と言っていても中々成果は出にくい。行内業務の効率化は抜本的に進めつつ、対顧客に対して上記三つのどの戦略を取るのかを明確にし、既存の店舗網はどう変えていくのか、対面サービスとデジタルサービスのバランスをどうとるのか、メインのターゲット顧客は誰なのか、といった点を決めていく必要がある。実行においては相応の要員数や投資を必要とし、また方針によってはそれまでの地銀の価値観を変える必要もあるため、経営層から行員へのトップダウンでのアプローチが不可欠であり、経営層のリーダーシップ・コミットメントも重要となる。
-
- 人材スキルの底上げ:これらの戦略を実行するためには、デジタルを使った業務改革、デジタルチャネル整備のためのUXデザイン・システム開発、プロジェクトマネジメント等の知見が必要となる。中途人材を採用して補うことも考えられるが、地域によってはそもそも地元にそうした人材が少ない、というケースも多いため、行内で育成をしていくことも必要となる。全行員の底上げは時間がかかるので、戦略実現のために必要な人員数・人材要件を固めたうえで、選抜した対象者に集中的にスキルを付けてもらうのが良いだろう。
Xspear Consultingにできる支援
地銀については組織の役割や行員の属性がメガバンクとは大きく異なり、その経営改革については、戦略、組織、業務改革、データ活用などのスマートなコンサルティングだけではなく、組織の文化や行員の意識・行動を変えること、地域企業や自治体、大学等も含めた連携、住民に対して粘り強く説明することなど、時間のかかるプロセスにおいて、アジリティ高く伴走しながらサポートすることが必要である。
Xspear ConsultingではDX人材の育成や現場レベルでの業務効率化、DXを活用した新規事業の検討支援を実行した経験を保有し、企画立案から伴走支援までをサービス※4として提供している。また、シンプレクスグループの一員として公的機関と連携して実施した、地銀が融資を行う各地域の中小企業向けにDX推進やサイバーセキュリティ対策を普及させるための取組みに関する調査※5の実績や、地銀が地域のDXを推進するにあたって構造的に解決しなくてはならない課題などの知見を保有している。
今後、地銀が自らの生き残りをかけて、地元企業と連携し、サステナブルな地域づくりに貢献しながら、経営を改善していくためには、実績と知識を有するパートナーが重要である。日本の数々の金融機関に対して先端テクノロジーの活用による変革を起こし、ビジネスを成功に導いてきたシンプレクスグループ、Xspear Consultingのプロフェッショナルは、その知識と経験を基に、各組織にあわせた戦略を実行可能なレベルまで落とし込みつつ、経営層が自信をもって意思決定できるようにするとともに、一人ひとりの行員が粘り強く歩みを進められるよう、支援していきたいと考えている。
- ※1
- みずほ銀行、みずほ信託銀行、三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、 三井住友銀行、 りそな銀行、三井住友信託銀行、新生銀行、あおぞら銀行
- ※5
- 「地域金融機関における中小企業向けセキュリティ対策普及等の取組に関する調査」報告書
- https://www.ipa.go.jp/security/reports/sme/chiikikinyu-hearing2021.html
Managing Director
梶田 威人
Managing Director
Taketo Kajita
大学卒業後、NHKの報道番組ディレクター、ボストン・コンサルティング・グループのプロジェクトリーダーを経てXspear Consultingに参画。金融業界における戦略策定、DX戦略立案、人事組織テーマに強みを持ち、メディア・エンタメ業界においてはDX戦略立案、NFT等の新規事業立案を得意とする。
執筆者の記事一覧Managing Director
野田 有毅
Managing Director
Yuki Noda
大学卒業後、メガバンク、アクセンチュアを経て、2023年Xspear Consultingに参画。金融、製造業界を中心に、DX・ITを主軸とした戦略策定、新規事業立案、組織変革、規制対応、ガバナンス態勢高度化等、幅広いプロジェクトを主導。
執筆者の記事一覧