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自治体にとって待ったなし、防災DXのすすめ

2023-07-28

はじめに

2023年5月11日午前4時16分、千葉県南部を震源とする地震が発生した。最大震度は5強で、関東地方在住の多くの方が、スマートフォンから流れる緊急地震速報のアラームで目覚めただろう(都内在住の筆者も飛び起きた)。

地震をはじめとする自然災害は、時を選ばず発生する。災害の激甚化が叫ばれる中、いかに人命が失われないようにするかは自治体にとって喫緊の課題である。本稿は、自治体による防災施策にDXを活用する重要性を論ずる。DXが防災施策において取り入れられる背景や、自治体のDX導入事例を踏まえ、将来DXが活用される可能性を考察する。

自治体における防災DXの定義

DXの定義は、ビジネスと国・地方公共団体の観点で異なる。
経済産業省の「デジタルガバナンス・コード※1」によると、ビジネスにおけるDXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされる。

一方、総務省の「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」※2によると、国・地方公共団体のDXは「自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させる」ことおよび「デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく」こととされる。

上述した国・地方公共団体のDXの定義に基づけば、自治体が防災という観点で取り組むDX(本稿では防災DXとする)とは、デジタル技術等を活用して「住民にとって防災・減災に関する行政サービスの利便性を向上させること」および「業務効率化を図り、災害時の行政サービスのさらなる向上に人的資源をあてること」だと考えられる。

なぜDXを取り入れた防災が必要か

自治体が地震津波防災のためにDXを取り入れる重要性として、災害の広域化があげられる。
たとえば今後30年以内に約80%の確率で発生するとされる南海トラフ巨大地震では、九州から東海地方にかけて最大震度7の揺れ※3と、最大34メートルの津波※4が沿岸部を襲うと想定されている。被災地が広域化することによって、十分な支援が行き届かないおそれがあり、自治体ごとに被害を減らす取り組みが平時から欠かせない。

ほかにも、首都直下地震や千島海溝・日本海溝における大規模地震とそれに伴う津波被害が予想されている。局所的な被災であれば、全国から自治体職員やボランティアが被災地に駆けつけ、人海戦術で問題を解決することができるかもしれない。しかし、広域化した災害が発生した場合、他の自治体から十分な支援が望めるとは言い難い。各自治体が、被災後も自力で行政サービスを提供する必要があるのだ。限られた人的資源で効率的に業務を遂行するため、自治体にとって防災DXを推進する意義は増している。

自治体による防災DXの具体例

すでにDXによって自然災害から住民の命をまもる施策に取り組んでいる自治体がある。たとえば、1995年の阪神・淡路大震災で府内最大の被害を経験した大阪府豊中市があげられる。豊中市は迅速かつ的確な安否確認・避難行動要支援者の避難支援体制を構築する取り組みの一貫として、「防災チャットボット」を導入した。民間の気象会社と提携し、安否確認に協力する民生委員と自治体がリアルタイムで連携できる仕組みの開発を進めており、2022年2月には実証実験を実施した。被災時は、自治体職員を含めた住民が被災者であり、限られたリソースで住民安否を確認する必要がある。豊中市の事例は、DXによって従来の業務プロセスを変革し、自治体職員の業務を効率化しているといえる。

また、住民に対して事前の備えを促すためにDXを活用する事例がある。2018年7月に発生した西日本豪雨等で土砂災害による被害が頻発する広島県では、住民に災害リスクを自分事として捉えてもらうことが課題であった。そこで広島県は、AR(拡張現実)技術を活用し、スマートフォンに搭載されたGPSや電子コンパス等により位置や方向を特定して、スマートフォンのカメラの映像に土砂災害警戒区域等を赤や黄色で重ねて表示するwebサイトを公開した。被災する可能性を減らすための情報を住民が手軽に得られるという点で、防災DXの取り組みといえる。

官民連携による防災DXの展望

今後、自治体が防災DX導入を進めるうえで注目したいのは、官民連携による防災DX推進の活動である。このうち2022年に設立された防災DX官民共創協議会※5は、防災分野におけるデータ連携等の推進を通じて住民の利便性の向上を目指し、防災分野のデータアーキテクチャの設計やデータ連携基盤の構築等の検討を行うとしている。自治体はこうした官民あげた最新の動向を把握することで、各自治体に適した防災DXの検討・導入につなげる機会を得ることができるだろう。

Xspear Consultingには、政策立案や防災の知見を蓄えたコンサルタントが所属している。今後、自治体に寄り添い、防災DXの実行に向けた伴走支援に関わっていきたいと考えている。

※1
デジタルガバナンス・コード
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf

※2
自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画
https://www.soumu.go.jp/main_content/000726912.pdf

※3
気象庁「南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ」
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/nteq/assumption.html

※4
都府県別市町村別最大津波高一覧表<満潮位>
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku/pdf/1_2.pdf

※5
防災DX官民共創協議会
https://ppp-bosai-dx.jp/

Associate Manager

中道 洋司

Associate Manager

Yoji Nakamichi

大学卒業後、NHK報道アナウンサーを経て、Xspear Consultingに参画。防災士。自治体のDX施策支援のみならず、エンタテインメント業界の経営戦略立案、製造業界のITガバナンス構築支援、教育業界の調査業務支援等、幅広く経験。

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中道 洋司

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