ナレッジ・コラム

2024年 訪問看護事業における医療レセプトオンライン化と経営状況可視化の必要性

2023-05-31

訪問看護事業におけるレセプトの現状

2024年4月から訪問看護の医療レセプトがオンライン化されます。これまでの訪問看護現場では、介護保険分は既にオンライン請求対応が完了していたものの、医療保険分はオンライン化がなされていませんでした。つまり、今までは事業者がレセプトを紙で印刷し、支払基金や国保連合会(以下、支払機関)へ発送する作業および受取後の処理作業が毎月発生していたのです。平成30年の訪問看護ステーションに係る医療費は2,355億円とされ※1、一月あたり約200億円もの金額のレセプトを1.4万件もの事業者から紙媒体で郵送にて受け入れ、一部でも手作業で処理していたとすると、事業者側も受け入れ側も毎月の負荷は大きかったのではないでしょうか。

加えて、資格過誤によるレセプト返戻も訪問看護現場において解消が望まれる課題です。訪問看護の現場では、患者が企業を退職後も保険証を返還せず保有しているケースが散見されるようです。その保険証を提示された場合、現状の紙面発送では一度レセプトを支払機関へ発送したのち返戻を受け、訪問看護者から患者への説明、患者自身が保険者に出向き、全額医療費を支払い、正しい保険証での還付請求を行う必要があるとのことで、高齢の患者が多い訪問看護事業においては、事業者だけでなく患者自身の負担も非常に大きいといえます。

今回のオンライン化では上記の課題を同時に解決するため、オンライン請求とオンライン資格確認の二つが導入されます。オンライン請求導入により、印刷・発送作業を行っていた訪問看護事業者の業務効率化だけでなく、配送業者を挟まないことで請求から支払までの期間を短縮することにも繋がります。またオンライン資格確認では、訪問看護事業所が支払機関のシステムに接続することで、患者の保険資格をその場で確認することができるようになるとのことです。これにより 提示時に有資格者であるかを確認し、レセプト返戻の発生を低減することができます。

電子化から一歩先へ、経営改善のためのデータ可視化の必要性

この医療レセプトオンライン化をもって、作業負担の改善が期待できることを前項で述べましたが、訪問看護事業者の帳票一括管理が可能になることや、事業者が取り扱う患者属性の統計的なデータの活用およびCRMツールのさらなる活用など、事業の経営、運営改善に向けた取り組みが期待されています。

従来患者データの統計解析は厚生労働省により行われ、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)として運用されています※2。しかし集計が都道府県別・性年齢別・二次診療圏別など大きな範囲での集計であることや、訪問看護事業に直接関係のない情報までも掲載されていることから、医療統計として調査研究に用いられることはあっても個々の事業者が利活用できるものではないと考えられます。
また、全国の訪問看護事業所は約1.4万事業者、1事業所あたりの常勤看護職員平均は4.4人※3とされる一方、厚労省の調査※4によると患者数は介護保険利用者が約54万人、医療保険利用者が約30万人存在します。医療保険利用者がすべて介護保険利用者に包含されると仮定しても、一人の看護師あたり平均8.8人の患者を受け持つ体制です。2007年に改正された医療法に基づく一般病棟の人員配置標準が看護師1人あたり患者数3人※5であることを考えると看護師の受け持ち患者数が多く、また今後も進行する高齢化に伴いさらに患者数が増えることが想定されます。加えて、訪問先への移動など訪問看護特有の業務負荷も鑑みると、業務改善は必要不可欠です。事業者ごとのデータ分析・活用が、業務改善への一歩となるのではないでしょうか。

今後の訪問看護事業者の経営改善への期待

全国訪問看護事業協会の「令和4年度訪問看護ステーション数 調査結果※6」によると、訪問看護事業者は毎年6.4%が休廃業となっている現状があります。中小企業庁が発表している全業種の廃業率平均※7が3.3%であることを考慮すると、この休廃業率は高いと言えます。超高齢社会の日本において、訪問看護事業の維持拡大は喫緊の課題です。今後、データ活用が訪問看護事業者の経営を改善し、日本の高齢者ケアの質と量の向上につながることを期待します。

※1
訪問看護の現状とこれから2022年版, 訪問看護財団
https://www.jvnf.or.jp/global/The_Present_and_Future_of_Visiting_Nursing2022_JP-memo.pdf

※2
【NDB】NDBオープンデータ, 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177182.html

※3
訪問看護事業所における 看護師等の従業者数の規模別にみた サービスの実態に関する調査研究事業 報告書, 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/04/koukai_190410_18.pdf

※4
在宅医療の現状について,厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000909712.pdf

※5
医療法に基づく人員配置標準について
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0323-9b.pdf

※6
令和4年度 訪問看護ステーション数 調査結果, 一般社団法人全国訪問看護事業協会
https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r4-research.pdf

※7
2022年版 小規模企業白書, 中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/shokibo/b1_1_2.html

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