ナレッジ・コラム

我が国のロボットの概況と利活用に向けた論点

2024-03-01

はじめに

2024年1月のコラム(テクノロジーが紡ぐ明日 ~2024年はロボットに着目)では、当社が今年着目する技術としてロボットを取り上げ、様々な業界における活用事例や、構成する技術要素の概要について解説をした。本コラムでは、ロボットの導入による効果や期待、ロボットに関わる技術開発の動向、政策動向を紹介したのちに、さらなるロボット活用に向けた論点とXspear Consulting株式会社が実行可能な支援について紹介する。

ロボットへの期待

我が国は、生産人口の減少や社会資本の老朽化といった社会構造の変化、産業の空洞化や経済安全保障リスクの発生といった経済環境の変化、地球温暖化や自然災害の深刻化といった地球環境の変化等、多岐にわたる社会課題を抱えている。これらの社会課題の解決として、ロボットの活用が期待されている。ロボットは人よりパワーやスピードに優れ、過酷な作業や繰り返し作業に向いているため、ロボットを導入し活用することで、現場において図表1のような効果をもたらすことができる。

図表1 現場におけるロボット活用の期待効果

このように、ロボットを導入し活用することで、労働力の確保、生産性の向上、安心安全な生活基盤の実現、地球環境への負荷低減等が期待される。

ロボット活用の広がり

世界のロボットの市場規模とロボット市場の成長率の観点で、ロボット活用の広がりを分析する。2020年では製造業の市場規模は約100億ドル、生活空間や医療支援がそれぞれ約35~45億ドル、次いで農業、物流倉庫、施設管理が約8~10億ドル程度を占めている。しかし、図表2の通り2030年までの年平均成長率でみると、建設、屋外搬送、点検の分野では30%以上、次いで施設管理と小売飲食で25%以上が推定されており、今後のロボット活用範囲の拡大が期待される。

図表2 ロボット活用分野別の市場動向

このデータから、これまでは工場や物流等の屋内での定型作業をロボットが行うことが主流であったが、近年はロボットに関わる技術の発展に伴い、建設、点検、農業等の屋外作業や、施設管理や小売飲食等の周辺環境や状態に応じて臨機応変な動作が求められる非定型な業務でのロボット活用が進んでいくことが推察される。

ロボットに関わる技術開発の動向

ロボットを構成する技術は、感覚器官である認識・理解系、頭脳である知能・制御系、手足や体である駆動・構造系に大きく分類することができる。これらの技術に加え、ロボットの付加価値を高める周辺技術の開発動向を解説する。

図表3 ロボットを構成する技術

認識・理解に関する技術の中には物体認識、周辺環境認識、人理解がある。物体認識については、ビジョンカメラで取得した情報からAIを用いて物体を高精度に検出・認識・状態推定する技術開発が進んできた。近年は視覚に加えて、株式会社FingerVisionの開発した触覚センサーや、株式会社Thinkerの近接覚センサー等で取得した情報を用いた物体認識の技術が登場し注目されている。周辺環境認識では、ビジョンカメラやLiDAR(Light Detection And Ranging、光による検知と測距)を用いて、ロボットの自己位置推定と地図作成を同時に行うSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)の技術開発が進んできた。近年は、Kudan株式会社のように環境認識の高精度化や環境の動的変化に対する頑健性向上に向けた複数台のセンサー情報を統合するセンサーフュージョンやAI活用も見られる。近年は、人の近くで使用するロボットも普及しつつあり、人理解に関する技術開発も進んでいる。ビジョンカメラで取得した動画像からロボットの周辺の人を検知し、動作行動を計測する技術開発が進んでいる。理化学研究所のガーディアンロボットプロジェクトでは、人の生体情報の推定、感情や認知等の心のメカニズムの解明に関する技術開発が行われている。
知能・制御に関わる技術は、マニピュレーション、モビリティ、ヒューマンマシンインタラクション(HMI)、遠隔制御に分類される。マニピュレーションについては、高精度に把持タスクを実現するためのAI制御、物体や周辺構造物に衝突をせずに高速に動くための経路計画に関する技術開発が見られる。Realtime Robotics社は、同じ空間を共有する複数台のロボットが衝突回避をしながら高速に動作するアルゴリズムを開発した。モビリティについては、動的変化の大きい環境にも対応する自律移動、複数台のロボットの群管理・協調制御に関する技術開発が注力されている。オムロン株式会社は、100台までのモバイルロボットの協調制御を実現し、Hikvision社は倉庫用ロボットを複数台制御することを実現している。ロボットが人の介在を必要とする状況や人とのコミュニケーションが発生する場合は、HMIの技術も重要である。GROOVE X株式会社は、人との関係性に応じたコミュニケーションを行うことで癒しを提供する家庭用ロボットを開発し、CYBERDYNE株式会社は、人の動作や意図に基づき適切にアシストを行う装着型ロボットの開発をしている。また、遠距離・複数台のロボットの遠隔制御に関する技術開発も注目されている。リモートロボティクス株式会社は、データ転送の最適化による通信遅延の低減に関する開発をおこない、テレイグジスタンス株式会社は、触覚フィードバックによる臨場感のある遠隔制御を実現している。
駆動・構造に関わる技術開発は、ロボットアームの先端に取り付けられ把持等を行うエンドエフェクタ、安全柵を設けず人と作業空間を共有して動作する協働ロボット、ロボットハードウェアを構成するコンポーネントで多く見られる。エンドエフェクタについては、パナソニックホールディングス株式会社が開発した手先にベルト機構を有するハンド、Soft Robotics社の柔軟性に富んだ素材を手先に実装したハンド、Righthand Robotics社の伸縮する吸着パッドと板バネ構造を統合したハンド等、把持する対象物に応じたハンドの開発が広く進んでいる。協働ロボットは、Universal Robots社が高重量を扱うことができるロボットアームを開発し、株式会社デンソーウェーブは安全性と効率性を両立するロボットアームを開発し、オムロン株式会社はロボットアームと移動ロボットを統合したモバイルマニピュレータを開発している。近年では、Boston Dynamics社のように二足歩行のヒューマノイドや四足歩行の犬型ロボットの開発も見られる。コンポーネントについては、軽量化、小型化、低価格化に向けて要素技術開発が進む。高速に処理が可能な計算機、高効率な動力伝達を実現する減速機、エネルギー密度の高いバッテリー、耐環境性に優れた素材、ケーブルレスに向けた無線通信等も技術開発が進む。
ロボットの付加価値を高めるための周辺技術として、サイバーフィジカルシステムとインテグレーションが注目されている。サイバーフィジカルシステムは、ロボットを含む生産システムや現場環境をデジタル空間に再現することで、ロボット導入の事前検討や導入後のシステム全体のプロセスの改善や最適化ができるため注目されている。株式会社竹中工務店はBIMモデル等からデジタル空間を構築するプラットフォームを開発し、NVIDIA社は工場全体のデータをデジタルツインに構築するプラットフォームを開発している。SIEMENS社は多次元情報を用いて予防保全に活用し、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社では、ロボットの効率の高い経路計画を制御に反映することに活用している。ロボットは現場に導入された後に適切な動作設定を行うためにインテグレーションも重要である。専門スキルの無い現場担当者でも簡単にロボットを活用するため、三菱電機株式会社は直感的にティーチング可能なインターフェースを開発し、Google Research社は生成AIを用いて実現したい目標を指示するだけで自動的に動作計画を作成する技術を開発している。このように、ロボットは認識・理解、知能・制御、駆動・構造に関わる技術に加えて、付加価値を高めるための周辺技術の開発が進んでいる。

ロボットを取り巻く政策動向

我が国では、2015年度に「ロボット新戦略※1」を策定し、官民連携により技術開発に取り組んできた。現在進行している事業・活動のうち、代表的なものは下記である。

図表4:技術開発に関する代表的な事業・活動

また近年は技術開発に加えて、ロボットを活用する物理環境の整備・標準化やガイドライン・法規制の整備等にも取り組んでいる。現在進行している事業・活動は、分野に特化したものが多く、代表的なものは下記である。

図表5:環境整備に関する代表的な事業・活動

NEDOでは、2030年を見据えた「社会実装加速に向けたアクションプラン」と、2035年に向けて中長期でのインパクト創出を見据えた「次世代技術基盤構築に向けたアクションプラン」を策定※17し、技術開発と環境整備が一体となってロボット活用を推進することを発表している。

さらなるロボット活用に向けた論点

ロボットに関わる技術開発や環境整備は進みつつあるものの、ロボット導入・活用による費用対効果が出にくく、投資回収に時間を要することが大きな障壁となっている。費用削減に関しては、今後の要素技術の発展によりロボットや周辺機器の価格が下がることが期待され、経済産業省のロボットフレンドリーな環境整備に関する取り組みにより、システムインテグレーションのコストが削減することが期待される。一方、効果向上については、現場環境で高度にロボットを活用することができるかと、ロボット導入に伴い事業や業務プロセスを変革すること(ロボットトランスフォーメーション)ができるかが大きな論点となると考えられる。前者は、現場環境のデータを一元管理し、AIでの分析結果をロボット制御に反映することが重要である。後者は、ロボット活用を前提とした現場環境のあるべき姿を描き、生産性向上とロボットのユーザー体験(UX)や顧客体験(CX)の向上を両立する業務プロセスを策定することが重要である。

図表6 ロボット活用における費用対効果向上に向けた論点とアプローチ

最後に

Xspear Consulting株式会社は、ロボット、AI、無線通信、XR、ブロックチェーン等の先端技術の知見を活かしたテクノロジーコンサルティングや、システムやソリューションを現場に提供するための戦略立案と実行支援の経験を活かしたビジネスコンサルティングの提供が可能である。また、グループ会社であるシンプレクス株式会社には、システム開発、UI/UXデザイン、データサイエンスに精通したチームがあり、Xspear Consulting株式会社のコンサルタントとワンチームとなって顧客に伴走することも可能である。
これらのケイパビリティを活かし、ロボットやその周辺技術に関わる技術動向の調査、ロボット活用に関する構想策定、ロボット活用を前提とした業務プロセス変革の実行支援、ロボット活用に向けたサービス企画開発の支援などで日本のロボット活用拡大に貢献していきたい。

※1
日本経済再生本部「ロボット新戦略」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/robot_honbun_150210.pdf

※2
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「革新的ロボット研究開発基盤構築事業」
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100188.html

※3
内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 人協調型ロボティクスの拡大に向けた 基盤技術・ルールの整備 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画」
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sip_3/keikaku/11_robotics.pdf

※4
内閣府「ムーンショット目標」
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/target.html

※5
経済産業省「ロボットフレンドリーな環境の実現」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/robot/230929_robotfriendly.html

※6
経済産業省「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」
https://portal.monodukuri-hojo.jp/about.html

※7
一般社団法人 日本ロボットシステムインテグレータ協会
https://www.farobotsier.com/index.html

※8
国土交通省「物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n2621000.html

※9
経済産業省「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosoko_robot/index.html

※10
ロボットデリバリー協会
https://robot-delivery.org/

※11
ロボットフレンドリー施設推進機構
https://robot-friendly.org/

※12
農林水産技術会議「スマート農業実証プロジェクト」
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/smart_agri_pro/smart_agri_pro.htm

※13
AMED「介護ロボットのニーズ・シーズマッチング支援事業」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000791973.pdf

※14
厚生労働省「ロボット介護機器開発等推進事業」
https://robotcare.jp/jp/home/index

※15
一般社団法人 日本建設業連合会
https://www.nikkenren.com/

※16
建設RXコンソーシアム
https://rxconso-com.dw365-ssl.jp/

※17
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「ロボット分野における研究開発と社会実装の大局的なアクションプラン」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101639.html

Manager

中山 雅宗

Manager

Masamune Nakayama

京都大学大学院修了後、大手電気機器メーカーに新卒入社。ロボティクス、コンピュータビジョン、ヒューマンマシンインタラクション等のAI技術開発やプロジェクトマネジメントを実施。その後、外資系コンサルティングファームにて、ロボティクス、AI、無線通信等の先端技術に関する戦略策定や新規事業創出を支援。2024年にXspear Consultingに参画し、デジタルマーケティングや生成AIに関するプロジェクトに従事。マイミッションは「テクノロジーで人が幸せに活きる未来を創る」。

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中山 雅宗

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