2020年末から注目を浴び始めたNFTは、2022年初頭にかけて盛り上がり、2022年11月現在では落ち着きを見せています。
Xspear Consultingではエンタテインメント企業から金融機関までNFT事業に関するコンサルティングを幅広く提供しています。本コラムでは、来るべきweb3成熟期にむけて知っておくべき基礎知識として、企業がNFT事業に参入する理由、成功事例、販売方法、クライアントから伺うことの多い課題をご紹介します。
なぜNFT事業に参入するのか?
一つ目の理由には新たな収益源の確保があげられます。国内のコンテンツIPはグッズ、ゲーム、漫画、音楽など様々な活用がなされていますが、競争が激化する中で新たな収益源を模索しており、その有力な候補としてNFTが着目されています。
NFTが着目され始めた2020年~2021年初頭はコンテンツを持たない個人や団体が開発したオリジナルのIPが注目を浴びていました。しかし、2021年後半から2022年にかけては強力なIPを保有する企業の参入も相次いでいます。
直近は暗号資産暴落の影響もあり取引量が落ち着いておりますが、NFTの市場規模は2021年には前年の実に215倍に拡大しています(参照:消費者庁「第45回インターネット消費者取引連絡会」資料1※1)。
二つ目にweb3市場への先行投資があげられます。今後市場が活性化したときに備え、ナレッジの蓄積や人材育成、web3領域に精通した企画・開発企業との関係構築などの“先行投資”が有効であるといえます。
例えば、とある大手ブロックチェーン関連事業を提供する企業は、2022年初頭にNFTに精通する人材不足によりNFTに関する新規案件の受付が滞ってしまうことがありました。当時、ナレッジ・人材・体制・他社とのネットワークが揃っていたら、足踏みすることなく事業を拡大することができたでしょう。
各社のPhase1的取り組みが一通り落ち着いた今こそ、情報収集や関係構築など本格参入に向けた準備に適していると考えられます。
国内企業の成功例
国内のIPホルダー主導で話題となった事例として、アイドルのももいろクローバーZと、ジュエリーブランドのAMBUSHの事例を紹介します。
ももいろクローバーZは2021年10月上旬にトランプカードをテーマにしたNFTを販売※2しました。PassMarketとOpenSeaの2つのPFで販売され、前者のPassMarketではLINEのウォレットを利用できる手軽さから、10,800円のパックが1,144個完売しました。ホルダーに対する特別なユーティリティ(特別なサービスを利用できる、といった特典)が設計されていたわけではなく、当たりを引くとメンバー直筆イラスト色紙ピースがもらえる、NFTを複数所持していることにより追加で別のNFTが配布される、といったよくある特典でした。それにも関わらずこれだけの売上を上げたのは、知名度・人気の高さに加え、国内でNFTの注目がちょうど高まったタイミングだったことも要因の一つだったと言えるでしょう。
一方でAMBUSHはNFTの注目が少し落ち着いた2022年に入ってから話題となりました。2月に販売された、往年のブランドデザインを模した「POW!®」というNFT※3は、当時のETHの値段で約5万円でしたが、わずか2分で2022個が完売しました。
注目すべきはその後の展開です。独自のメタバース空間内でNFTホルダーのみが購入できるリアル商品の展開を行ったり、ネックレス型のジュエリーNFTと実物のネックレスが手に入る宝探しイベントを開催したりする等、次々に企画を打ち出しており、今後も各種特典やコンテンツへの優先アクセス権を提供することを予定しています。この事例は、ブランドに対してコアなファンがいたことに加えて、魅力あるユーティリティを周到に設計したことが成功の要因と言えるでしょう。
どう販売するべきか
マーケットが落ち着いている今、また今後次世代のNFT事業に参入するとしたら、どのような検討をすべきなのでしょうか。
一つ目はNFTをリリースした後の企画やコミュニティ運営を入念に設計することです。
過去国内で展開されたコンテンツIPを活用したNFTでは、「ユーティリティを設計しないまま、単にデジタルグッズとしてNFTを販売したがゆえに完売しない」「コンセプトやロードマップを前面に出してはいるもののコミュニティが活性化せず流動性が失われた」といった事例が多く、成功といわれるものはそれほど多くありません。単に保有するIPを切り売りして終わるのではなく、前述したAMBUSHの事例のような、様々なユーティリティやゲーム性を前面に打ち出し、NFTホルダーが大きなメリットを享受できる構造を生み出すことが重要であると考えられます。保有者たちのコミュニティをモラルが保たれた状態で活性化していく、といった運営の工夫も必要となります。
二つ目には強力なIPとの提携・活用があげられます。国内外でCC0(著作権の放棄)※4と呼ばれるパブリックドメインのNFTが流行しつつありますが、コンテンツ大国である日本ではライセンス管理の観点から相性が悪いため、まずは強いIPを活用してマス層へリーチすることが重要であると考えます。
NFT発の強力なIPが活用された例でいうと、Bored Ape Yacht ClubとAdidasがコラボして販売された「Into the Metaverse」※5があげられます。筆者もこのNFTを保有していますが、ステップに応じてフィジカルグッズやPFPとして利用可能なNFTがエアドロップされ、ホルダーにわくわく感を持たせるような取り組みがなされています。下記は運営から筆者のもとに届けられたパーカーですが、世界に約24,000着しかない特別なパーカーを手に入れられた喜びと、フィジカルイベントに着用していけるわくわく感を味わっています。
三つ目にはNFTホルダーがウォレットを意識せず利用できるサービスへの展開があげられます。現状パブリックチェーンのNFTを利用する際には基本的には個人でのウォレット管理が必要となりますが、秘密鍵の流出や不正なトランザクションの承認による被害が相次いでいます。web3に精通しているユーザーにリーチできないといったデメリットはあるものの、マス層を狙ったサービスを展開する際には、個人でのウォレット管理が必要とならないよう、企業がウォレットを管理するサービスを活用したNFTの販売をしたほうが安全であるといえるでしょう。
NFT事業に取り組む際の障壁とは?
大まかな方向性を定めた後も、いざ本格的に検討を始めると、多くのハードルが立ちはだかります。下記は実際に我々がコンサルティングをする中で、クライアントの方々から寄せられた声です。
- 各事業部で並行してNFTの案件が検討されており、必要な検討が重複して行われていた
- 専任の人材をアサインしなかったため、スピード感をもって事業を進めることができず、リリースのタイミングを失ってしまった
- リリースを焦るがあまりサービスの設計が十分にできず、利用者目線のNFTを販売することができなかった
- 確実な売上の見通しが立てられないため、経営層の承認がなかなか下りなかった
- 参入はしたものの、特にゴール設定がなかったため、単発のトライアルで終わってしまった
- 外部のベンチャー・ベンダーに丸投げしたため、社内にナレッジが溜まらなかった
上記のような課題をよく見ると、実はNFT特有の課題ではなく、新規事業全般に通ずる課題でもあります。こうした課題を抱えるクライアントに対して、我々は新規事業立ち上げの仕組みづくりから支援することも多くあります。具体的には、
- 新規事業を担う専門チームの設置
- 新規事業立ち上げ経験のある人材の採用
- 新規事業の案出し~トライアル~スケールまでのプロセスの整備
- 撤退ルールの設定
など、その支援範囲は多岐に渡ります。
より詳しい課題解決方法については、ぜひ当社コンサルタントにお問い合わせください。
まとめ
昨年一気にブームとなり、急速に知名度を高めたNFTですが、今はその勢いも落ち着き、真に価値のあるプロジェクトだけが生き残れるフェーズに入りました。このタイミングだからこそ、一度腰を据えて、じっくりと自社がNFTを出す意義の検討、そこに付随するユーティリティの設計等を検討することが重要ではないかと我々は考えます。そして、このNFT事業の参入をよい機会と捉え、新規事業立ち上げに必要な体制・制度作りを進め、NFTに限らず新たな会社としての成長を目指すのもよいかもしれません。
- ※1
- 消費者庁「第45回インターネット消費者取引連絡会」
- https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting_materials/review_meeting_002/029437.html