ナレッジ・コラム

テクノロジーが紡ぐ明日 ~2024年はロボットに着目

2024-01-26

はじめに

2023年、ChatGPTをはじめとする生成AIが急速に普及した。生成AIを業務で活用・検討している企業も多く(2023年6月時点※1 )、生成AIを活用することで、様々な業務の生産性が向上すると考えられる。生成AIの普及に伴い、国内外でルール作りの機運も高まっており、欧州では世界で初めて人工知能を包括的に規制する「AI法案」を大筋で合意し、2025年後半から2026年の施行を目指している。日本でも規制や活用に向けたルール作りが課題となっており、生成AIの事業者向けのガイドラインが2023年末にとりまとめられた。そのため、2024年以降、ガイドラインにのっとって生成AIの活用がさらに進展し、生産性向上や人手不足解消に生成AIが貢献していくことが期待される。
2024年は、生成AIの更なる普及以外にも、様々なテクノロジーが台頭してくるだろう。その中でも弊社は、多くの業界で活躍し、少子高齢化、労働力人口の減少が進む我が国において、人々の生活をより豊かで便利なものに変えていくためには不可欠と考えられるロボット技術の活用に着目している。ロボットの基盤技術は多数生み出されてきたが、ロボットの現場での活用推進やロボット産業の振興を視野に、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)では2030年を見据えた「社会実装加速に向けたアクションプラン」と、2035年に向けて中長期でのインパクト創出を見据えた「次世代技術基盤構築に向けたアクションプラン」を策定し、国としてもロボット活用を推進している。本稿では、様々な業界におけるロボットの活用や、ロボットに活用される技術の観点から、その動向を予測する。

ロボット活用、その可能性

昨今、iRobot社の「ルンバ」や「ブラーバ」に代表されるようなロボット掃除機は、全自動洗濯乾燥機、食洗機とともに「新・三種の神器」と言われており、家庭への普及率も増加傾向にある。また、「RoBoHoN」(シャープ株式会社)や「LOVOT」(GROOVE X株式会社)のような家庭用の話し相手になるロボットも出てきており、要介護者のコミュニケーション不足解消や認知症の予防の観点で活用されたり、見守りやアプリからのメッセージを発することで携帯電話をうまく扱えないこども等でもロボットを介してコミュニケーションを取ることができたりする等、様々な用途でコミュニケーションロボットが活用されている。それ以外にも、2015年からH.I.S.ホテルホールディング株式会社が運営する「変なホテル」で導入しているフロント業務を行うロボットや、すかいらーくグループで導入しているネコ型配膳ロボット「BellaBot」(Pudu Robotics社)に代表されるような飲食店での配膳ロボット等、日常生活においてロボットを目にするシーンが多くなっている。
家庭内では、掃除以外にも、洗濯や整理整頓等、多くの家事を自動化したり、スマートホームデバイスと連携してロボットが活躍する場面が増えてくると思われる。また、AIを搭載したロボットが家族の健康や生活習慣をモニタリングし、生活の質の向上につながるアドバイスを行う可能性も考えられる。介護においても、単なる介助支援だけではなく、高齢者の会話相手となり孤立感の解消につながるコミュニケーションロボットが今後ますます活躍すると予想される。さらに、飲食店において、配膳だけではなく調理プロセスを自動化するなど、厨房でロボットが活躍する日も近い。食品工場における盛り付け工程を自動化する盛付ロボット「Delibot™」やソフトクリームの円錐型を再現できる「ソフトクリームロボット」、生地入れから具材入れ、回転まで画像認識技術を用いて自動で行うたこ焼きロボット「OctoChef™」等がコネクテッドロボティクス株式会社から登場しており、より複雑な調理に対応できるロボットの普及が今後期待される。

また、物流を中心に、自動運転等の技術と組み合わせてドローンを含めたロボットの活用が進むだろう。搬送の自動化の観点でAMR(自律走行搬送ロボット)やAGV(無人搬送車)といった自律移動ロボットの導入が進んだり、物流倉庫内でのピッキングや梱包作業を効率化するロボットが台頭したり、ロボットとIoT技術が連携することで在庫管理の最適化が進むと期待される。また、都市部でのラストワンマイルは、交通渋滞や配送効率、駐車スペースの不足、受取人不在による再配達の高頻度での発生等の問題があると言われていることから、街中で配送用ロボットが導入され、配送コストの削減や効率性向上につながると考えられる。物流においては、自動運転技術が成熟することで、物流トラックの自動運転化につながり、ドライバーの負荷低減にもつながる可能性がある。また、都市部と異なり、過疎地域では、配送先が広範囲であるにもかかわらず配送頻度が低く、インフラの整備も追いついていない地域もあることから、レベル4飛行(有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行)を可能にする配送ドローンの実用化が期待されている。現在までに、東京都奥多摩町・檜原村、沖縄県久米島町等で、日本で初めて第一種型式認証を取得した株式会社ACSLのドローンを用いた実証実験が行われており、今後ドローンの社会実装が推進するものと考えられる。
ドローンは、物流以外にも、農薬散布、地形測量・点検等でも、すでに活用が進んでいる。農業では、センシングや空中播種を行うドローンが株式会社オプティムや株式会社ナイルワークスから出てきており、2024年にはさらにそれらの性能が向上し、より多くの農地で活用されることが期待される。また、いちご等、従来ロボットでの自動収穫向きではないと言われてきた果物の収穫についても、カメラやセンサーで成熟度を判断し自動で収穫する、世界初のいちご自動収穫ロボット「ロボつみ」を株式会社アイナックシステムが開発していることから、種蒔から収穫まで人が介在することなく、遠隔で少人数で農業に携わることが可能になると予想される。ドローンは、人が点検することが難しいような、水中や桟橋桁下の点検、ビル上部等の屋外広告物(看板)の点検、夜間の港湾監視等において、赤外線センサー等の他の技術と連携して、遠隔での点検や監視、防災等の領域でも活躍する可能性がある。

さらに、産業ロボットも2024年に活躍するだろう。工場内のロボットがIoTデバイスと連携して製造プロセスデータをリアルタイムで収集・分析し生産性が向上するスマートファクトリーのほか、工場内でのオートメーションとセンサー技術が統合し、より精密な製造作業をロボットが担うようになると考えられる。また、ファナック株式会社や株式会社安川電機の製品に代表されるようなコラボレーティブロボット※2 (コボット)が多くの工場に導入され、人と協働することが作業効率や安全性の向上につながることも期待される。そのほか、デジタルファブリケーション、ロボットアームの高精度化等、工場内でロボットが活躍する場面が増えていく可能性がある。製造業界では環境への配慮も昨今重視されていることから、エネルギー効率の高い省エネ型のロボットや、再生可能エネルギーやリサイクル素材を利用した環境負荷の小さいロボットの開発も進んでいくと期待したい。

技術を活用したロボットの進展

人々の暮らしを豊かにするため多数のサービス分野で実用化が期待されるロボットについては、人間に近い判断をするための人工知能技術だけでなく、外界の情報を認識・知覚するセンシング技術、ロボットの行動を制御する技術、手足などカラダを自然に近い形で動かす技術等の組み合わせで実用化に向けた研究が進められている。近年のハードウェアリソースの飛躍的な向上や、あたかも人間のようにデータや情報をアウトプットする生成AIの登場により、認識、制御(マニピュレーション、モビリティ、インタラクション)、インテグレーションといった領域で、これまで人間が実施してきたレベルに近いところまで研究が成熟することで、ロボットの実用化がさらに加速するだろう。
従来、カメラ、LiDAR、超音波等のセンサーにより、外界情報の認知をデータとして収集する技術は、自動運転やデジタルツインなどの中で外界を監視する「眼」として利用されてきた。前述の「RoBoHoN」や「LOVOT」のような家庭用コミュニケーションロボットのほか、株式会社デンソーの自動収穫ロボットやヤンマーホールディングス株式会社のロボットトラクターのような農業用ロボット、「建設ロボット」「索状ロボット」「脚ロボット」「空飛ぶロボット消火ホース」等の災害対応ロボット、製造業を中心としたスマートファクトリー等においては、収集される大容量のリアルタイムデータを瞬時にクラウドに転送し、学習した人工知能によって判断した結果を現実空間にフィードバックすることで、ロボットの中で瞬時に判断したかのように現実空間では見える。ロボットの「耳」としての音声認識技術では、長年課題であった話し言葉の解析が、家庭用AIスピーカーやWeb会議の記録等、利用者が増加したことにより企業の研究開発投資が進み、データも蓄積されたことで、その精度がかなり向上していると言える。
2023年の世の中に対する最も大きな成果の1つであった生成AIは、テキスト、音声、画像、映像などを入力情報として、その意味を解釈し、生成した情報を世の中に提供するものであるが、現時点ではChatGPTをはじめとしたプロンプトでの入力による文章生成の活用がほとんどである。生成AIについては、各国で利用に向けたルールが策定され始めており、ルールを踏まえて各国・企業での活用がさらに進むと考えられる。今後、ロボットと生成AIの融合によって、実社会からの入力情報を、人類の叡智を詰め込まれた生成AIにより処理し、ロボットの考えたアイデアを実社会において具現化できる可能性に期待したい。
今後考えられる展開としては、ロボットが人々と暮らす中で、様々なデータを収集しながら自ら考えたものを行動によって世の中に生み出し、人間がその正解を教えながらロボットを律することで、あたかも人間のように学習し、精度高く、より難度の高いタスクをこなすことができるロボットが生まれる可能性がある。

今後の展望

ロボットの分野では、ヒューマン・ロボット・インタラクションと呼ばれる、より心理学的、社会学的な立場での研究も進み、人間に違和感を与えず、適度な距離感、タイミング、頻度でロボットがコミュニケーションするように、インターフェースや制御の工夫、対話や触れ合いの方法が研究されている。この領域について、まだ改善の余地はあると考えられるものの、さらに研究が進んで、人間に近い形でロボットが振舞えるようになる、また、ロボットの社会進出が増えて人間がその環境に慣れることで、「人とロボットの共生社会」の到来も遠くないかもしれない。
2025年に開催を控える大阪万博は「いのち輝く未来社会のデザイン – Designing Future Society For Our Lives」をテーマに、会場では様々なロボットが参加する予定である。その前年である2024年は、昨年から引き続きロボット技術が大幅に発展し、大きな転換の年になる可能性があると考えている。
よりよいWell-Beingな社会に向けて、ついにこどものころに見たアニメやサイエンスフィクションの映画の世界が近づいてきている。
Xspear Consulting株式会社では、官公庁、民間企業、大学を含む研究機関等と連携し、ロボットに直接関係ある技術動向の調査、AIやデジタルツイン等の周辺技術と組み合わせた技術開発支援、業務変革等の周辺環境の整備、利活用に向けたサービス企画開発支援などを通じて、費用対効果を高めながらロボットの社会実装を進めることで、産業の発展や社会課題の解決に貢献していきたいと考える。

※1
「ChatGPTブームが追い風 生成AIを活用・検討している企業、6割超え」(株式会社帝国データバンク)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p230608.pdf

※2
コラボレーティブロボット(協働ロボット)は、産業用ロボットの一種で、規定された協働作業空間で人間と直接的な相互作業をするように設計されたロボットを指す。

Managing Director

吉浦 周平

Managing Director

Shuhei Yoshiura

国内大手SIer、在ジュネーブの国連機関、外資系コンサルファーム(BIG4)を経て、シンプレクスに参画。官民問わずパブリック領域の案件を中心にコンサルティングサービスに従事。DX戦略策定、新規事業開発、次期システム構想検討、要件定義、アーキテクチャ設計、データ標準策定、先端技術(人工知能、ブロックチェーン、XR、IoT等)の実証・実装など、幅広いテーマで支援実績を有する。

執筆者の記事一覧
吉浦 周平

Associate Manager

田守 綾

Associate Manager

Aya Tamori

大学院修了後、シンクタンク系コンサルティングファーム、リサーチ会社、外資系総合コンサルティングファームを経て2023年、Xspear Consultingに参画。官公庁を中心に、様々な業界・テーマに関する調査研究やリサーチに従事。こども・子育て支援分野等の政策検討の知見を有する。

執筆者の記事一覧
田守 綾

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