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デジタル田園都市国家構想とメタバースの融合による地方創生の可能性

デジタル時代に復活する成長戦略「デジタル田園都市国家構想」

デジタル田園都市国家構想は、政府の提唱する「新しい資本主義」の成長戦略の1つとして、都市部への人口集中による地方の人口減少、少子高齢化、地域産業の空洞化などの課題を解決するために官民が連携してデジタルインフラを整備し、その上で医療、教育、交通、物流、環境、産業など、様々な分野でのサービスを実装していくものです。
田園都市構想といえば、1970年代の後半に当時首相であった大平正芳が、「都市の持つ高い生産性、良質な情報と、田園の持つ豊かな自然、潤いのある人間関係を結合させ、健康でゆとりのある田園都市づくりの構想を進める」として提唱されたものですが、年月を経過して様々な社会課題が顕在化し、Covid-19が人々の生活様式を変容させ、世界的にもSDGsやWell-Beingが重視されるようになった2020年代の日本において、再び、「デジタル」を組み合わせて国家成長戦略として打ち出されました。デジタル田園都市国家構想のコンセプトは、Society 5.0の先行的な実現の場であるスマートシティ/スーパーシティ構想の流れを汲むものでもありますが、地方に焦点をあて、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指していくことがポイントです。スーパーシティが未来志向により先進的なテクノロジーを実装した魅力的な都市を構築するのに対し、デジタル田園都市は、地方においてデジタル技術によって活性化をはかることで社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すものとされています。

若者にとってのWell-Being、都市部の魅力

少子高齢化の進む現在の日本社会において、特に深刻なのが地方の衰退です。若者の流出による人口減少は、地方の生産年齢人口の減少と消費市場の縮小の要因になっており、地域経済における需要と供給の両面にマイナスの影響を与え、衰退に拍車をかけています。Covid-19の流行は人々の生活・行動様式の変容をもたらし、一時的に東京一極集中の流れは緩和しましたが、都市部の魅力は大きく、再びトレンドは地方から都心への向きに変化するのではないかと考えられます。
移動における負荷が低減した時代において、若者は進学や就職等の人生の転機となるタイミングで地方と都会、または海外等を比較し、中長期的に充実し、より幸福度の高い人生を送ることを考え、進む道を選択します。Well-Beingを重視する日本の若者にとって、都市部の最も大きな魅力の一つは多様な人が集まることにあります。そこに新しい文化が生まれ、消費市場が活性化し、経済合理性から利便性も高くなるため、人は離れずに暮らし続けるのです。住民の数は限りがあり、取り合いとなるため、このサイクルの中で人々を集めている都市部に対して、全国にある地方都市がこの流れに打ち克って、人を集める流れを作り出すことはかなり困難であると考えられます。
日本が経済的に成熟した後に生まれた若者が、スマートフォン等で容易に情報収集可能なこの時代において、より幸福度を高めたいと考え、魅力的な東京や海外に出ることは自然の流れに思われます。一方で、地方の自治体では、住民の暮らしの利便性向上や安心・安全なまちづくりに重きを置いており、特に若者の流出を抑えるような施策を本格的に作るには至れていません。投資する余力が少ない地方都市においては、今後も流出数を抑えることは難しいのではないかと考えます。

スマートシティと連動するメタバースの可能性

日本における地方からの若者の流出減少に寄与するソリューションとして、様々な企業、団体が力を入れているのがメタバースです。メタバースについては、リアルである物理空間の都市をバーチャル空間上に再現し、リアルとバーチャルを連動させながら、人々に対する新たな価値を生んでいく取組みが進められています。例えば、観光地をメタバース化して、バーチャル空間での観光経験から、実際の集客につなげるという動きがあり、国内でもいくつかの自治体が試みています。スマートシティのプロジェクトでもメタバースが取り入れられており、いずれスマートシティの一要素として標準的なものになる可能性もあると考えます。
これまでのスマートシティ関連のプロジェクトではデジタルツインを実現する活動が進められてきました。デジタルツインとは、AI、IoT、5Gなどの技術を使いながら、現実世界で起こっている事象を仮想空間上に再現した双子環境のことで、現実の3D空間、物、自然現象、人の行動などを時間の概念も含めてデジタルデータに変換して再現されます。メタバースはデジタルツインと似ていますが、人やモノのシミュレーションには重きを置いておらず、分身(アバター)による交流がその世界観の中心になります。センサーや計算機を含むハードウェアのスペックがどこまで向上しても非線形な事象の解析には限界があり、また、スマートシティについては住民起点でのサービスを中心に考えられることから、今後は現実空間と仮想空間における「人」に焦点を当てながらスマートシティとメタバースの融合がこの領域で主流になる可能性は十分にあると考えられます。

政策とテクノロジーが融合したSociety5.0の時代へ

Gartnerのレポートでは、メタバースの展望について、2026年までに、人々の4分の1は、1日1時間以上をメタバースで過ごすようになるとされています。主に若者からシフトしていくことを考えれば、物理空間にある制約のいくつかが取り払われた仮想世界で多様な人々が集まり、新たな文化が形成されるようになることで、若者は物理世界上では地方にいながらも、仮想空間上で豊かさを感じることも可能になります。また、物理的に地方にいることが個性を生み、仮想空間上でのアイデンティティの確立につながるのであれば、優位性が生まれるかもしれません。そのとき、デジタル田園都市国家構想により、地方の課題が解消され、安心・安全で利便性の高い暮らしができるようになっていれば、若者が都心で生活する動機も減り、都会と地方の分散化が進むことも想像されます。
日本における地方都市の衰退はこれからも続くという悲観的な見方も多いですが、今後、日本が政策として進めるSociety 5.0とテクノロジーが連動しながら、デジタル田園都市国家構想を形にすることで、日本全体で最適かつ持続的、また個々においても幸福度の高い社会を実現することが可能であると考えています。

https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20220209

Managing Director

吉浦 周平

Managing Director

Shuhei Yoshiura

国内大手SIer、在ジュネーブの国連機関、外資系コンサルファーム(BIG4)を経て、シンプレクスに参画。官民問わずパブリック領域の案件を中心にコンサルティングサービスに従事。DX戦略策定、新規事業開発、次期システム構想検討、要件定義、アーキテクチャ設計、データ標準策定、先端技術(人工知能、ブロックチェーン、XR、IoT等)の実証・実装など、幅広いテーマで支援実績を有する。

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