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クラウド移行を「改善」に変える設計・実装・運用の一貫アプローチ

2026-04-22

モダナイゼーション不足が、クラウド移行後の高コストを招く

DXを進めるうえで、クラウドサービスの活用はすでに『当たり前』になりました。オンプレミスがハードウェアの耐用年数に縛られた固定的なインフラであるのに対し、クラウドは構成変更が可能なため、初期投資に縛られず常に最適な構成・スペックを選択できるアジリティが強みです。一方で、「クラウド=コスト削減」という図式は必ずしも正解ではありません。現場では、民間企業でも公共領域でも、むしろ運用費が増加する、あるいは開発生産性の改善が進まず、DXで期待した効果が十分に得られないと感じるケースが一定数あります。公共領域については、デジタル庁が公表している資料の中で、移行後の運用経費が平均で約2.3倍、自治体の5割以上で2倍以上、最大で約5.7倍といった増加が示唆されています(自治体団体からの要望・調査結果の引用という形)。

出典(デジタル庁公表資料):https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/c58162cb-92e5-4a43-9ad5-095b7c45100c/dc96d895/20250613_policies_local_governments_doc_02.pdf

では、なぜ高コスト化するのでしょうか。整理すると要因は大きく四つに集約できます。第一に、クラウド最適化(モダナイゼーション)が不十分なまま移行が完了してしまうこと。第二に、移行する/しないシステムが混在し、二重のコストと二重の運用が発生すること。第三に、期限優先で『まずは間に合わせる』が繰り返され、最適化や改善が後回しになり続けること。第四に、運用が複雑化し、結果として求められるスキルが上がることで、作業工数や外部委託費が増加しやすくなることです。

まず第一の『モダナイゼーション不足』は、多くの組織でリホスト(いわゆるLift & Shift)が現実的な選択肢になることと表裏一体です。期限内に、最小限の変更で、比較的低リスクに移行できる――この合理性は否定できません。オンプレミス運用を担ってきた人材が、サーバレス、コンテナ、マネージドデータベース、API、イベント駆動、IaC、CI/CD、といったクラウドネイティブなサービスを学び、アプリと運用の前提を作り替えるところまで到達するのは、実務としては一気に難易度が上がります。ただし『早く移せる』ことは『良くなる』ことと同義ではありません。構成や運用の前提が変わらないまま移ると、クラウド上で旧来の課題や技術的負債を温存し、コスト構造も運用負荷も大きくは変わりません。

第二の『二重コスト』は、部分最適の積み重ねで起きます。全体像を描かずに段階移行を進めると、クラウド側とオンプレ側(あるいは別基盤側)で、連携・監視・セキュリティ・障害対応・ベンダーマネジメントが二重化します。さらに、データ連携が密結合のままだと、変更のたびに影響範囲が広がり、開発と運用の双方で手戻りが増えます。結果として『移行しているのに、運用が軽くならない』状態が続きます。

第三の『期限優先』は、制度改正や更改期限が明確であるほど顕在化します。まずは移行を完了させ、次は制度対応、次は追加開発――と優先順位が連鎖し、モダナイゼーションは『次の機会に』と先送りされがちです。民間企業でも、事業要請により同じことが起こります。改善を後回しにしやすい構造そのものを変えない限り、コストと生産性の問題は『慢性化』してしまいます。

第四の『運用複雑化とスキル要求の上昇』は、クラウドが高度な選択肢を提供するがゆえに起きます。運用の自動化、構成管理のコード化、可観測性の確保、セキュリティの組み込み、サービスレベルの定義と計測――これらはモダナイゼーションの中核ですが、組織がそれを日常運用として回せる状態に到達するには、技術だけでなくプロセスや役割分担も含めた変化が必要です。『分かる人が限られる』状態のまま運用を始めると、属人化や外部委託への依存が強まり、結果的にコストが増加しやすくなります。

移行を改善にかえるモダナイゼーションと運用設計の高度化

では、何をどうすると『移行』を『改善』に変えられるのでしょうか。官公庁のガバメントクラウド移行では、デジタル庁が示す観点として、APIベースのシステム構成、ステートレスなアーキテクチャ、マネージドサービスの活用、運用のコード化・自動化(IaC等)、サービスレベルの定義・計測(可視化から改善へ)といった到達点が整理されています。重要なのは、これらを『要件として並べる』だけでなく、設計・実装・運用の一貫性として実現し、移行後も継続的に改善を回すことです。

実務の観点で言えば、第一に『いま何にいくらかかっているか』を可視化し、最適化の優先順位を決めることが出発点になります。移行直後は、構成が移りきった安心感から改善が止まりやすい一方で、実は課金と工数のボトルネックが最も見えやすい時期でもあります。第二に、二重構造を前提にした暫定運用を常態化させず、連携方式やデータの持ち方を見直しながら、段階的に疎結合へ寄せていくことが必要です。第三に、期限優先になりがちな案件ほど、移行完了をゴールにせず、移行後の改善サイクル(可視化・計測・改善)を計画と成果物に組み込むことが効きます。第四に、運用のコード化や監視設計、セキュリティの組み込みを『担当者の努力』に依存させず、標準の手順として定着させることが、属人化と外部委託費の増大を抑える近道になります。

とはいえ、これらを各プロジェクトで都度ゼロから組み立てるのは簡単ではありません。設計思想、実装、運用、ガバナンスまでを同時に前へ進める必要があるため、部分最適では成果が出にくいのがモダナイゼーションの難しさです。だからこそ、実行フェーズを確実に推進しつつ、得られた知見を次の案件に横展開できる形で資産化することが重要になります。

Xspear Consulting(クロスピア)は、シンプレクスとも協力しながら、ガバメントクラウド関連プロジェクトに継続的に取り組んできました。私たちが重視するのは、単発の移行支援ではなく、『再現性のある進め方』を作って横展開することです。プロジェクトで得た学びをテンプレートや標準手順として体系化し、次の案件で活用できる形に整備することで、移行後の運用を見据えたモダナイゼーションを現場に無理なく定着させていきます。公共領域では調達仕様に沿った提案と提供を基本にしながらプラスアルファの価値提供を心掛け、民間企業向けには議論しながらフェーズと予算に合わせつつ、最終ゴールから逆算してアプリケーションのモダナイズやDevSecOps支援、近年は生成AI駆動開発の支援にも取り組んでいます。公共領域では、決まったスコープと予算の中で「やり切る」ことが求められます。したがって重要なのは、移行後に改善を継続できる状態づくりを前提にすることよりも、提案段階から知識と経験を総動員して、実行可能な計画(到達アーキテクチャ、段階移行、体制、リスクと打ち手、成果物、運用設計まで)を具体に描き切ることです。民間企業においても本質は似ており、継続的な改善につながる土台づくりは必要である一方、移行期に“なるべくやり切る”設計と実装を組み込み、後回しを生まないことが成否を分けます。クロスピアは、そのための計画策定から実行、標準化・横展開までを一貫して支えていきます。

(参考)
デジタル庁 GCASガイド
本編: https://guide.gcas.cloud.go.jp/
サマリー: https://guide.gcas.cloud.go.jp/images/gcas_guide_summary_20260128.pdf

Managing Director

邊 有希

Yuki Bian

Sler、外資系ホテル企業、国内メディア企業等でSE、 PM、 PdMとして約20年の開発・運用現場経験や海外勤務経験を有する。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーにてDX戦略策定、基幹システム刷新、ITコスト削減、ECトップライン向上、デューデリジェンス等、幅広いテーマで金融・製造、官公庁等へのプロジェクトに従事。2025年にXspear Consultingに入社。

邊 有希

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