日本のIT人材不足
日本国内ではIT人材不足が叫ばれて久しく、『IT人材白書』によれば2030年には最大で約79万人のIT人材が不足するとされています※1。ガートナーの調査※2によると、日本企業ではIT戦略遂行において、アウトソーシングの位置づけが「極めて重要である」「重要である」と回答した企業が89.3%に上り、「重要ではない」と回答した企業は7.5%にとどまりました。企業のDXの取り組みについても、約8割の企業が何かしらの領域で外部人材を活用していることが明らかになっています。また、国内のSIerへの委託のみならず、海外の企業への業務委託(いわゆるオフショア開発)の活用も行われており、『オフショア開発白書2022年版』※3によるとコスト削減や国内リソースの不足、開発スピード向上などの理由でベトナムやミャンマー、フィリピンなどの東南アジア諸国やインドへの委託が行われているようです。
そもそもなぜ日本ではIT人材が不足しているのでしょうか?その理由として、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育の軽視が挙げられます。アメリカではパズルのような形式でゲーム制作や実験を行える『Scratch』※4や無料でプログラミングの授業を受講できる『Code.org』※5などIT教育の地盤が整備され、一部州では小学校のうちから教育カリキュラムの中にプログラミングが組み込まれているようです。一方で日本では、コロナ禍の影響もあり2021年時点で96%超の小・中学校で電子端末が導入されているものの、教員自身が「学校の学習指導での活用」や「教員のICT活用指導力」を一番目、二番目の課題として挙げるなど、教育に十分に利活用できていないようです※6。多くの学力考査や入学試験が筆記試験を伴うことが影響してか、例年数学・科学的リテラシーは高く※7基礎学力向上と思考力の養成は行えているものの、IT領域への接続がうまくできていないことが考えられます。
ローコード開発というトレンド
このIT人材不足の課題に対して、ローコード開発は、「育成のハードルを下げることによる人材増」、「一人当たりの生産性向上」といった2つの側面から解決策を提供します。
最近では巷でも名前を目にするようになりましたが、プログラムを書くことなくシステム開発を行ういわゆるノーコード開発も存在し、業務部門のユーザでも容易に使用可能であることが特徴です。一方ローコード開発は、一部プログラミングが必要となるため、エンジニアもしくはパワーユーザの関与が必要となりますが、プログラミングができる利点を生かし、ノーコードと比較すると柔軟な開発が行えます。共通して言えることは、最初から用意されている機能をパズルのように組み合わせてシステム開発を行う手法であることです。一からプログラミングの文法を学ぶ必要がなく、論理回路のようなものを作成することで短時間かつ比較的容易、直感的に開発を行うことができる点が評価されています。
ローコード開発は、昨今のDXへの取り組みの必要性、ビジネス変化に対するアジリティの確保といった課題に対し、日本式の教育にもビジネスの潮流にも親和性が高いと考えられます。現に、ITRの調査※8によると、国内のローコード開発市場は2020年の515.8億円から2025年には1,539億円(198%成長)を遂げると試算されているほどであり、ますます注目度は上昇していると言えます。
最適なローコード開発ツール選定のために
前項までは、ローコード開発のメリットについて述べてきましたが、そんなローコードも万能ではありません。一般的なシステム開発と比較するとハードルは低くなりますが、それでも開発ツールの学習は最低限必要であり、プロジェクトチーム全体で考えると、土台となる基本的なシステム開発の知見(要件定義、設計、プロジェクトマネジメント等)が不可欠です。
さらにローコード開発導入に向けた課題となるのが、開発ツールの選定です。市場規模の拡大に伴って参入する企業、開発ツールの増加が顕著であり、利用者はどの開発ツールを利用するのが最適かを判断することが難しくなっています。ライセンス費用もさることながら、ツールが自動で開発してくれる範囲も異なります。画面のみを作れるツール、ロジックまで作れるツール、データベース上のテーブル定義まで作れるツールなど様々です。ユーザビリティも当然違います。直感的に使えるツール、簡単なプログラミングが必須であるツールなど、多種多様なツールの中から、自社の特性にあった製品を選ぶことが最初にして最大の障壁と言えるかもしれません。
またツールによっては、既存システムや外部サービスとAPI連携できるようなツールも存在します。ツールの強みを最大限に発揮させようとすると、全社のシステム構成を抑えた上での導入・開発計画の立案も非常に重要な過程です。
ツール活用のための導入計画
製品選定(ツールのアセスメント)に加え、どの領域にローコード開発を活用するかといった導入計画も肝要です。
比較的簡単に改修可能である強みに着目すると、例えばアジリティ高く改修を行っていく必要のあるBtoCシステムは適していると言えます。さらに現場に素早く価値を届けていく必要のある業務システムにも向いています。一方で、直感的に開発可能である強みに着目すると、複雑な作り込みが不要なシステムもマッチするかもしれません。対照的に、一度構築したら基本的に改修を行わない、アジリティが不要なシステムに対してはこれらの強みを活かしづらいとも考えられます。
導入領域以外の観点では、育成を含む人員計画も必要となります。伴走できるパートナー企業との連携、ローコード以前のレガシーな手法で開発を行っていた担当者の活用など、検討事項は多岐に渡ります。これらの各種論点を事前に整理したうえで、導入計画を立て、まずは小さな領域からローコード開発をスタートすること、自社の文化にアジャストさせながら徐々に全社に展開していくことが成功の秘訣と言えます。
- ※1
- 『 IT人材白書2020』, 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)社会基盤センター
- ※2
- Gartner Japan, 「ガートナー、国内企業のITソーシングに関する調査結果を発表」
- https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20200817
- ※6
- 文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課, 『GIGA スクール構想に関する各種調査の結果』
- https://www.mext.go.jp/content/20210910-mxt_jogai02-000011648_001.pdf
- ※7
- 文部科学省・国立教育政策研究所,『OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント』
- https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
Managing Director
黒澤 懸一
Kenichi Kurosawa

アビームコンサルティング、ドリームインキュベータでの製造業や出版業等における業務・IT改革プロジェクトの経験を経て、Xspear Consultingへ参画。コンサルタントとして、ITガバナンスプロジェクト、顧客の新規事業立ち上げ、DX組織の組成、大規模システム構築等、多岐にわたり経験。また、CIOとして全社のコンプライアンス強化、BtoCサービスの構築経験を有する。

Manager
有田 佳冬
Yoshito Arita

大学卒業後、シンプレクスに入社。システム開発・運用保守・プロジェクトリーダーを経験後、Xspear Consultingに立ち上げメンバーとして参画。IT知見を活かし、デジタルを活用した新規事業立案、成長戦略、新サービス企画、マーケティング、UXデザイン等の幅広いプロジェクトを推進。
