ここ数年でDX/ITプロジェクトが急速に増えており、それに伴ってDX/IT人材は市場全体で供給不足状態になっています。DX/IT人材の報酬水準もあがっており、企業のDX/IT部門の人件費も増加基調になっています。さらにここに来て過去20年以上なかった水準での円安が進んでおり、オフショア人材の費用が円ベースで値上がりしていることも、さらなる人件費の増加要因となっています。
ニューヨーク投資銀行でのグローバルIT人材活用アプローチ
グローバルでのIT人材活用に関して、筆者は過去にニューヨークで勤務していた際にニューヨークの投資銀行におけるオンサイト、ニアショア、オフショアの人材の使い分けを支援したことがあります。ニューヨークの投資銀行の本社では5000万円以上の年俸で世界トップクラスのプログラマーを採用し、最先端の金融工学を使った高度なプログラミングによって競合に対する差別化を図っています。それと同時に、そこまでのIT技術が不要な役割はアメリカの地方都市のニアショアセンターが、さらにより定型的な業務はインドや東欧などのオフショアセンターが担当しています。
ロケーションによってIT人件費には数倍の差があり、人材調達のロケーションを使い分けて必要なスキルを持った人材と費用の最適化を図っています。IT人件費を削減するときにはオフショアリソース、ITによる競争力を強化する時にはオンサイトリソースと、IT人材の調達ロケーションの使い分けがIT投資のアクセルとブレーキの役割を果たしています。
同じグローバルIT人材活用ができない日本企業の状況
同じようなグローバル人材活用方針を日本企業に当てはめようとしたとき、大きな違いは日本の人件費が世界基準では安いことです。ここ数年は東京の人件費は欧米の地方都市のニアショアセンターに近かったのが、直近の円安の影響によって今やオフショアセンターに近い水準になっています。
日本企業はオフショア活用に費用削減効果を期待できなくなってきており、人材のスキルや定着率なども加味すると東京のIT人材はコスパがよいとも言える状況になっています。日本にはまとまったIT人材を集められるニアショアセンターとなりうる有力な地方都市がないこともあって、日本企業では人材調達のロケーションを変えることがIT費用のアクセルとブレーキの選択肢になりにくい状況があります。
日本の人材をグローバルに活用すべきでは
このような状況で日本企業がとりうるIT人件費の効率化には、異なる発想のアプローチが必要になります。具体的には海外拠点の業務を日本の人材が対応することです。日系企業が米国拠点での現地IT人材を採用しようとした場合の給与水準よりも、日本拠点の社員に駐在員ベネフィットを追加したほうが低コストで対応できた例があります。かつて海外拠点の人件費削減の手段が日本からの駐在員を現地採用社員に置き換えることだった時代がありましたが、今は逆のことがおきています。
日本からの駐在員派遣による人件費削減をさらに推し進めるには、海外拠点のDX/IT人材ニーズも見据えての日本国内でのDX/IT人材の獲得・育成が求められるようになってきています。Xspear Consultingでのコンサルティングのテーマとしても、グローバル対応を担うDX/IT人材像の定義の見直しから人材の獲得や育成がテーマにあがってきています。
ここ数年はDX人材のマーケットでの報酬レベルが高騰する中で、従来の報酬制度とは別にDX/IT人材に特化したキャリアパスや報酬制度を独自に作る動きが進んでいますが、さらに昨今はグローバル対応ができる人材向けのキャリアパスや報酬制度を作る動きも出てきています。また日本の人材が海外でも仕事をしやすい状況を作るためにも、DX/ITプロジェクトのプロセスなど、仕事の進め方をグローバルで統一することも重要です。
日本企業の組織としての対応を見てきましたが、日本人のDX/IT人材としてこの状況を考えてみると、グローバルに活躍するチャンスが広がってきているということでもあります。日本のDX/IT人材の方々には、この機会を生かしてぜひ海外でのキャリア形成にもチャレンジしていただきたいです。
Managing Director
齋藤 晃
Managing Director
Akira Saito
大学院終了後に米系コンサルティング会社の東京オフィスとNYオフィス勤務を経てXspear Consultingに参画。製造、通信、金融などの業界で欧米、アジアやアフリカの拠点も含めたグローバルの戦略策定、ガバナンス、IT/オペレーション統合などの幅広いプロジェクトに従事。
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